城と館ー室野源太左衛門城館調査録ー

中世山城や古建築など、巡り歩いた情報を発信します。当面の間、過去の訪問先の情報が主になりますが、近い年月日の情報も随時発表していきます。

阿部館山登頂記 安倍貞任伝説の山

 

【登頂日 2012年4月15日】

 阿部館山は岩手県盛岡市下閉伊郡岩泉町の境にある標高1221mの山です。周囲の斜面は急峻で谷も深いのですが、山頂付近は馬の放牧ができそうなほどなだらかな地形です。その昔、安倍貞任(あべのさだとう)が立て籠もったと伝承される山で、山頂の周囲には雛壇状の地形が幾重にも巡っています。このなかには堀の埋没した部分も含まれると思います。古い時代の城館跡であることはまちがいありません。この日は山城仲間二人(私よりも年長です)に同行していただき、なんとか無事に登頂し、帰ってくることができました。お二人に大変感謝しています。当日は快晴で遠方まで眺望が開け、北東側岩泉町小本の谷の彼方に、太平洋の水平線がかすかに望まれました。

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北東側から見た阿部館山

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阿部館山の位置(国土地理院HP)

 

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山頂北西側の御金蔵岩

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東側椴松沢から見上げた阿部館山、鞍部の左側(主郭側)に堀の窪みが見える

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山頂北側の様子(西半)

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山頂北側(東半)北側の切岸とテラス(左下へ伸びています)

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東斜面の雛壇がかすかに見えます。埋没が進行していますので、テラスは全て外側へ傾斜しております。

遠景に見えるのは北上山地最高峰の早池峰山です。

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山頂から見た岩手山

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山頂から見た早池峰山

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山頂から見た岩泉町小本方面、遠くかすかに太平洋の水平線(谷の彼方)

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遠くに区界峠近くの岩神山の鉄塔が見えます。

写真手前の笹が左右に密生しているのは、曲輪の切岸(人工の法面)です。

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山頂の曲輪はこのように自然の起伏をそのまま残した状態で、この周囲に人工の切り岸(法面)があり、その下にテラス状の平場が廻っています。縁辺部の土砂の流失や低いところへの流入と埋没が進んでいるため、曲輪の縁辺はシャープではなく、丸くなだらか。斜面部のテラス状平坦地も平坦ではなく、外側へ傾斜しています。もっとも、この日は70㎝ほど積雪がありましたから、雪上からの観察です。夏場は笹が密生しているため地形は見通せません。

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北側の切岸

この辺りは人工の地形を明瞭に観察できます。この直下が北側の堀跡になりますが、かなり埋没しているようです。こうした切岸やテラス、堀は、経年変化で埋没が進んだ場合、近くからはわかりにくくても、日光のコントラストにより、遠くからも起伏が読み取れる場合があります(冒頭の写真参照)。

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北西部の御金蔵岩と、岩の手前を右斜め下に降る堀の地形(北から)

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山頂の西側斜面

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北東側切岸(西から)

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東南側の切岸 なだらかに丸くなっています。

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上から見た東側のテラス(堀跡)

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南側にやや下がった場所に、このような沢か溝のような地形がありました。

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頂上北側に少し離れて存在する出丸のような山(南から)

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北側出丸のような山を北から見る

中腹にテラスが廻り、手前には割と広い平坦な地形があります。雪面にはスノーモビルの走行跡が残っていました。

 

 この日、山頂には数十人の登山の団体。中腹にはスノーモビルやスキーを楽む男女が何組かいて、以外にも登山者が多いのに驚きました。

 

※ この城館跡の詳細については、地元の専門雑誌(『岩手考古学第24号』岩手考古学会2013年3月30日)に投稿しておりますので、関心のある方は是非御参照ください。